人口減少をはじめとするさまざまな要因によって、「モノが売れない時代」になっている。メーカーはもちろん、小売業もあらゆる施策を打ち出して、販促に注力しているが、それらは、いまという時代に合っているのだろうか。背景にある同質化と飽和化の問題を解決し、他社との差別化を図り、独自性を消費者へ伝えることができるプロモーションとは。これからの効果的な販促のヒントや事例の紹介が行われた。
実施日時:2018年9月26日(水)
第一部【講演】 消費者動向と今後の市場トレンドについて 博報堂行動デザイン研究所 所長 國田圭作 氏
第二部【パネルディスカッション】 店頭販促活性化のヒント~ディスプレイコンテスト活用事例 セブンスター 営業企画部 部長 白石裕一 氏 道北アークス ウェスタンパワーズ店 店長 鈴木桂市 氏
第一部【講演】
「消費者動向と今後の市場トレンドについて」
博報堂行動デザイン研究所 所長 國田圭作 氏
「意識を変えるだけでは、人の行動は変わらない」。人を動かすマーケティングの新戦略として注目を集めている「行動デザイン」による発想とアプローチについて、博報堂行動デザイン研究所の國田所長に講演を行なっていただいた。
生活者が困っていない 「間に合ってます社会」
博報堂行動デザイン研究所
所長 國田圭作 氏
消費者である生活者をどのように捉えるのか? 本日は、生活者について、「インサイト(INSIGHT)」や「モーメント(MOMENT)」というキーワードを使って話を進めていく。生活者に向き合う時に、理解しにくい、言葉にならない部分へのアプローチの手法があり、そこに的を絞ったプロモーションの考え方となる。
「行動デザイン」という言葉は、初めて聞く方がほとんどかもしれない。それもそのはずで、我々の研究所で6~7年前に思いついた言葉であり、まだまだ、世の中の言葉にはなっていない。やっと最近、注目を集めだしている。
NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」のモデルになっていた雑誌がある。その特徴は、広告を取らないこと。広告主がいないので、気兼ねなく商品の特徴を伝えられる。その中心になっていたのが、生活者の側に立った「商品テスト」である。そのなかで、人気があったのが「洗濯機の商品テスト」だった。私が子供の頃にあった洗濯機には、脱水機能などはない。洗濯機についているローラーに洗濯物を差し込んで、回し、絞るというものだった。
何が言いたいかというと、その当時は、「このローラーは本当に便利だ」と親と話していた。その昔は、手洗いだったので、「洗濯機が我が家に来て、良かった」であった。だから、ローラーをグルグル回して絞る洗濯機は不便ではなかった。人というのは慣れてしまうと、まったく問題意識を持たない。その状態を当然と思い、やっていくうちに慣れてくるので、なんの不満も持たないようになる。これが、生活者の本質ではないかと思う。
生活者は、あるもので「間に合わせる技術」、あるいは「間に合わせる思考」を持っている。それを私の造語であるが、『間に合ってます社会』と言っている。当時の私の家庭では、脱水機能のない洗濯機でまったく困っておらず、現在のように一層式の全自動式洗濯機ができるなんて思ってもいなかった。
これは、どのような商品でも同様で、存在していないもののことは考えず、現状で便利であると考えている。携帯電話が出て来たころは、それが便利であった。その後、スマートフォンが出て来て「間に合っていなかった」ことに気がつくことになる。たくさんのコミュニケーションコストをかけたところで、間に合っている限りはなかなか行動には移らない。つまり、コミュニケーションコストは、昔ほど効果を生み出さないということである。
充足状態の中に未充足状態をつくり出す
「間に合ってます社会」は、いまにはじまったことではない。そのはじまりは多少曖昧であるが、ひとつの象徴的なできごとは、アメリカの自動車産業が発明した「イヤーモデル」で、1920年代の頃だと思う。1908年ぐらいに、全米中で大いに売れた車がある。その良さは、丈夫で壊れにくいということだった。そのため、買い替えが起こらなかった。そこで「イヤーモデル」が発明された。毎年、モデルチェンジをするというファッションの流行を自動車に取り入れたのだ。いまでは当然と思われることであるが、当時としては画期的なマーケティングだった。
また、アメリカでは、返品自由なので、使って汚れたテーブルクロスを返品する人もいるらしい。これは、アメリカが親切な国というわけではない。「返品自由」とうたわなければ、商品が売れなくなって来たということだ。これが、1950年代に起こっていた。
このように、アメリカは「間に合ってます社会」の先進国だと思う。だからこそ、いろいろなマーケティングの知恵や技術は「間に合ってます社会」を揺さぶるために生まれてきたと私は考えている。
ということで「充足状態」のなかに、無理やり「未充足状態」をつくり出す。そして、間に合ってしまうと、また「未充足状態」をつくり出すという無限の仕事に従事しているのが私たちだと言えるのではないだろうか。
「インサイト」に着目したプロモーション
では、生活者は何を欲しいと感じるのかという部分にフォーカスして話を進める。
その一つが「インサイト」である。「Got Milkキャンペーン」をご存知だろうか。1990年初頭に、アメリカで牛乳の消費量が減った時期があった。そこで、牛乳普及協会が、まずおしゃれな牛乳広告を展開。次に、牛乳は体にいいという広告を展開したが、いずれも消費者には届かなかった。
そこで、協会は牛乳を飲んだことのない人へのアプローチをやめ、飲んでいたが、いま飲むのをやめた人へのアプローチを考えた。「Got Milkキャンペーン」である。
牛乳が嫌いなわけではないが、最近あまり飲まなくなってしまった人へのアプローチであり、牛乳を主役せずに、食べ物を主役として、物を食べたときにむせる人のキャンペーンを展開した。「あるある」と共感を呼び、「そのとき、ミルクがなかったら?」という問いかけは、消費者に届いた。
その次の展開が、泡ヒゲ。牛乳を飲んだときに口の周りやヒゲに牛乳がくっついている写真がメインである。牛乳を飲んだときの特性をいかしたシチュエーションが「牛乳を思い出して、飲みたくなるよね」とまたまた評判となった。体験的な記憶を呼び覚ます企画であった。
このようなことが、インサイトである。とくに飲みたくもなく、飲まなくてもいいと思っている人に、物を食べて「喉に詰まりそうな時は牛乳」とか、「牛乳の泡ヒゲ体験」という記憶がインサイトである。カテゴリーインサイトと呼ばれており、牛乳というカテゴリーの内側にある特有の言葉にしにくい状況ということになる。
経験がある方も多いと思うが、飛行機の真ん中の座席は避けたいし、その状況は嫌なこと。そこで、航空券を読み取る機械を空港に設置。そこに航空券を読ませると、席のグレード評価が表示される。そして、悪い席であればあるほど、チョコがもらえるキャンペーンをベルギーのチョコレート会社が実施した。サンプリングであるが、単純に配布するのではなく、嫌な気分やストレスに対して、チョコをもらえることは、少しいい気分になれるという気持ちの部分にアプローチしたキャンペーン。これも、チョコ、そして飛行機の座席にまつわるカテゴリーインサイトなのだ。
このように、インサイトは、カテゴリーに特有なものに共通なものである。これをマーケティングに生かそうとすると、ブランドまで落とし込まなくてはならなくなる。ブランドインサイトである。これは難しい。そこまで、生活者はブランドのことまで考えていないという要因がある。逆にいえばブランドとして認知され独立しているものには、ブランドインサイトがあるといえる。
行動を見ながら隠れている部分を洞察する
このように説明しても、インサイトはわかりにくいかもしれない。
欲求には顕在化したものと潜在的なものがある。また、その中間もある。インサイトは潜在欲求といわれることが多いが、潜在欲求そのものではなく、欲求を洞察するきっかけや手がかりとなる表出した行動であるといえる。「見えているものと見えていないものの何か」である。だから、わかりにくい。
これを見つけるのは苦労するが、インサイトは行動の中にあるということだ。その例として、人は駐車券を口にくわえるという行動に着目したガム会社があった。ガムのフレーバーを駐車券に塗ったところ、その効果でガムが売れたというキャンペーンである。口にくわえるといことは表出したインサイトなのだ。
意識というのは見えないということ。ある人が「意識は、95%が無意識」であるといっている。だから無意識を見るということは無理がある。アンケート調査などで設問を見たときに、意識していないことは「このように答えておけばいいかな」と答えを書いている人がほとんどである。アンケート調査は、あてになるときもあれば、あてにならないときもあるということだ。
行動は、目に見える。目に見えるものを見た方がいいと思うだろう。氷山の一角というモデルがあるが、これは、目に見えるものには価値がなく、見えないものに価値があるという例で使われている。しかし、本当だろうか? 見えないものは、いつまでも見えないのだから、見えるものを追求した方がいいというのが私の考え方である。
ある会社が「ミニロールケーキ」をつくった。それだけで十分にかわいいので、アイデアは完成していたはずだった。しかし、そこからケーキを積み木のように積むようになって、「ロールケーキタワー」というものができた。最初からタワーをつくろうと考えていたとは思えない。誰かが、このミニロールケーキを積んだらどうなるんだろうと、はじめたと思う。いまでは、何段積みするかということで、ギフトが完成している。 似たような例が、「おむつロールケーキ」という新生児ギフトだ。これも、おむつを巻いて、リボンでとめたら、ロールケーキみたいでかわいいという発想である。本来はそれを積む必要はない。しかし、ロールをつくったことで、積みたくなるのだろう。 これらは、「人は積みたい」というインサイトである。積むことで、何かセレブレーションをしたい。理屈はないが、積むことで、人を祝うという行動が見えてくる。
モノ発想から行動発想へ
行動の表出部分と隠れている後ろの部分を洞察することで、なんとなく見えてくることがある。重要なのは、それを見つけたらどうするか。インサイトには、満たされていないものがある。牛乳を飲みたいのに、飲めない状況があることや、非日常になりたいのに、旅ができない状況がある。それを手軽ににかなえること。赤ちゃんに菓子を贈りたいけど、食べることができないから、菓子の代わりに「おむつロールケーキ」を贈る。満たされないモヤモヤに対して、「だったら、これをやってみたら」という提案をした商品が売れていることだと思う。
新商品開発の時は、どこに不満があるかを聞いたり、観察したり。そして、発見された不満を改良する。しかし、いまの「間に合ってます社会」において、少しの改良では間に合ってますとなってしまう。
「間に合ってます社会」でも、ところどころにある未充足部分を見つけ出す。それが、新商品のチャンスゾーンになるのではないか。その未充足部分を見つけるときに、行動の後ろにあるインサイトに着目。そのモヤモヤしたインサイトは何かを見つけることが発見につながると思っている。
しかし、このようなインサイトがいつもあるわけではない。たとえば加齢。じわじわと歳をとっているため、気がつきにくい。あるとき、ガクッときて、加齢に気がつく場合がある。このようなときにニーズが発生する。何かが未充足になるのだ。そのときにチャンスが生まれる。このような行動の揺らぎが生まれるときも、インサイトが起こりやすい。
では、どのようにインサイトを見つけ出すか。一般的には、商品を使うところをイメージして商品開発を行う。また、ショッパーマーケティングということで、商品を買うところの問題を研究している。
しかし、物(商品)だけを見ていては人のインサイトは見えてこない。実は、物と人を結ぶには行動が伴っている。例えば、置物。物であるが、それを飾って、愛でるという行動がある。置物でも行動で人とつながっている。
また、物が変わらなくても行動が変われば、人と物との関係は変わるといえる。たとえば、食品ラップ。それは、どこが薄くて使いやすいかという比較のモノ発想で訴求している。いまの生活者にとっては、あまりワクワクする話ではない。もちろん、メーカーさんは苦労して技術革新を行なってるので、その部分からなかなか抜け出せない。
そんななか、あるメーカーがデコ弁がはやったことをヒントに、時間がないお母さんのために、ラップの上から絵や模様が描ければという発想をした。そこで、口に入れても安全なインクを採用した専用ペンを開発、人気商品となった。もっと積極的にラップを使おうという行動を喚起する仕掛けであった。これが、インサイトを見つけた事例である。
「インサイト」と並ぶ「モーメント」とは
2つ目の話は「モーメント」である。この代表的なキャンペーンは、空港近くのアメリカのあるホテルが実施した、「飛行機が欠航したら『部屋が空いてます』という知らせをスマホに送り、必要な場合は簡単予約ができる」というもの。「人がホテルを一生懸命探している」ということが、モーメントの一つであるということである。
ホット商材は、昔は寒くなる冬場に販売するものであった。いまでは、体感気温が少し下がれば販売が開始される。寒い季節ではなく、寒いと感じた時がスタートであり、ホット商材は冬商材というのは思い込みということだ。消費者が何かしたいと思う瞬間=モーメントを捉えることもポイントになる。せっかく行動したいのに、行動に起こせない。その未充足を捉えることである。
節分の時に、豆をまく風習がどんどん縮小していくなかでも、節分を祝いたいというちょっとしたモヤモヤがあった。そこにマッチしたのが恵方巻き。イベント性も現代にマッチして拡大していった例である。急速に恵方巻きが拡大した理由には、豆まきに対する未充足があったと言えるだろう。
モーメントはいつ起こるかわからない。予測不可能なのだ。しかし、なかには予測可能なモーメントもある。それは、サイクル化されているモーメントだ。日本の場合には、四季がある。季節による周期性のあるモーメントは見つけやすいといえる。同様に、朝昼晩、1週間の曜日などもそれにあたる。「〇〇の日」も同じで、決まった周期で巡ってくるものは覚えやすく、習慣化されやすいことから、モーメントが起こりやすい。日本の特殊性は、やはり四季があること。季節ごとのモーメントが生まれるのである。
人をどうやって動かすのか
では、インサイトやモーメントを採用して、どのように人を動かすのかという話を最後にしたいと思う。人を動かすのは本当に難しい。
そもそも、何もやっていないことも行動である。新しい行動を始めてもらうには、いまやっている行動をやめてもらうことが必要となる。そして、新しい行動をはじめてもらい、続けてもらう。この3段階があるので、難しいわけだ。
今日紹介するのは、フォッグ博士が考えた「B=M・A・T」モデル。
上記のように、3つが揃った状態が行動につながる。
日本は、世界の中でチャリティー金額がとても低い国である。税金制度の差もあるが、寄付などを本当にしない国なのだ。その理由としては、「恥ずかしい」「後ろめたい」という答えが返ってくる。ある団体が「ヒーロー募金」というものを試みた。募金してくれた人を学生たちが褒め称えるというもので、これはモチベーション(M)が上がった例である。やりやすさということでは、朝の通勤時間は忙しく、遅刻したくない。そして、駅へと人の流れができているので、立ち止まってまで募金はできない。そこで、急がない人を対象にしようということで、江ノ島のビーチで募金をやったところ、募金者が増えて、駅前の10倍もの人が募金をしてくれた。これは、やりやすさ(A)が増えた結果である。
面白いことに人間は「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」と言われている。泣いていることを脳が察知して、悲しいと思う。つまり、感情より行動が先なのだ。逆に行動が停滞すると感情は起きないと言われている。
いま自動車離れと言われている。車が好きだから、磨いていたのだが、いまはポリマーコートを施すことで、ワックスがけをする人が減っている。実は、クルマを撫でる行為がクルマへの愛着を育んでいた可能性がある。行動が減ると愛着も減る。泣いているから悲しくなる説を裏付けるような事例だと思う。
このように、身体的、物理的な感覚が思いのほか、人間の理屈に合わない評価とか判断に影響することがある。人間の知覚や認知というものは、ほぼほぼ身体的なものであるという考え方だ。たとえば、特に女性は「もふもふ」に弱いといわれている。このような感覚は敏感で、身体感覚といわれている。それをうまく利用すると多くの人に受け入れられやすくなる。
また、意識変化を起こせば、行動変化が起きると思われていたが、実は、そうでもない。感情に働きかけても何かは起こりにくいが、ネクタイを外す行動ありきではじまった「クールビズ」は一気に浸透した。
大事なのは、仕掛け、つまりトリガー(T)である。理屈やメッセージだけでは人は動かない。行動を作り出す仕掛けがいるということだ。たとえば、ハロウィンで街にゴミが出る。そこで、行政が、ハロウィン専用のプリントしたゴミ袋を配布した。その中にゴミを拾って詰めれば詰めるほど丸く大きくなって、ハロウィンのかぼちゃお化けが出来上がるという仕掛け。これがトリガー装置で、お化けかぼちゃをプリントした効果である。
コストとは価格だけではないというアプローチ
行動の障壁というものもある。これは意外と大きく、これを取り除いてあげないと、人はなかなか動かない。そこに対して私たちは「アクセンビリティ」=取りつきやすさが必要だと考えている。私たちは先述の「B=M・A・T」モデルのなかの「アビリティ」を「アクセシビリティ」に読みかえて考えている。
人が習慣行動を止めてしまうときには、どのようなファクターがあるかを調べた。その結果、「快感要素が下がるとやめる」、「自分自身にとっての自己評価が下がるとやめる」、「アクセシビリティが悪くなるとやめる」というのもあることがわかった。そこには、近い、または通いやすいという距離要因と、夜遅くまで買えるなどの時間要因、買いやすい価格要因というものがあった。
人間は脳の中で、価格だけを評価しているわけではない。距離と時間と価格のすべてをひっくるめて、ざっくりとしたトータルな見積もりを取っているのだ。
ということは、値段だけを安くすることは、違うと思っている。むしろ、アクセシビリティを上げることが重要なのではないか。
これは、インバウンドを見るとわかる。昨年、日本に来た旅行者の国や地域は、中国、韓国、台湾、香港の4つの国と地域で74%を占めている。タイや他の国を含めると、もっと比率が上がる。これは、まさに近い国。そう、近い、早い、安いという旅行である。これを見ても、人間が持っているコスト意識とか、リスク感にきちっと向き合うことが、アクセシビリィティと考えられる。
前半に話をした「インサイト」であるが、人が自分でも気がついていないコスト意識、あるいはリスクというものもインサイトの一種といえる。一方で、売る側には、相対的にコスト感やリスク感が低い。ここに、評価の差が出ていることが問題となっている。
アメリカのある大学の実験である。ジャムの試食調査でどの商品を選ぶかという実験を行なった。ひとつは6種類の味を試食。もう一方は、24種類。どちらの購買率が高かったかというと、やはり6種類の試食であった。その差は、なんと10倍。情報過負荷といい、脳に対する情報の負荷が高まると、行動が抑制されるという事例である。
コストというと、価格と考えがちだ。コストをお金のことと考えてしまうと、ディスカウントをしようと考える。しかし、生活者にとって、お金は大きなポイントではあるが、時間、手間、選ぶための情報を探すこともコストになっている。いまはSNSをチェックして、即返信しないとまずい、といった精神的なコストもある。
このような、コストやリスクという視点で見ていくことで、いままで気がつかなかった課題が見えてくることがある。そこを解消してあげないと、いくら面白いことやトライしたいと思うようなことを提案しても、なかなか人の行動を起こさせることはできない。
生活者を動かすための、モーメントやインサイトを捉えた新しいマーケティング。売れない時代のプロモーションとして、「行動デザイン」を取り入れてみては、どうだろうか。新しい何かが生まれることを期待している。
第二部【パネルディスカッション】
「店頭販促活性化のヒント~ディスプレイコンテスト活用事例」
株式会社セブンスター 営業企画部 部長 白石裕一 氏 株式会社道北アークス ウェスタンパワーズ店 店長 鈴木桂市 氏
人口減少や少子高齢化といった社会構造の変化に直面している小売業。市場規模の縮小など、さまざまな問題に直面しながらも、売るノウハウと売場づくりの技術を磨いて対応している企業は多い。そこで、ディスプレイコンテストにおいて、高い評価を受け続けているゼブンスター(愛媛県)と道北アークス(北海道)のコンテスト活用事例を紹介してもらうパネルディスカッションを実施した。
本部と店舗を経験しているから理解できることがある
株式会社セブンスター
営業企画部 部長
白石裕一 氏
株式会社道北アークス
ウェスタンパワーズ店
店長 鈴木桂市 氏
司会 まず、簡単な自己紹介をお願いします。では、白石様から。
白石 セブンスターの白石と申します。弊社は愛媛県の道後温泉がある松山市を中心に、現在10店舗、売上約160億円規模のスーパーマーケット(SM)です。ほとんどドミナントが半径10キロ程度の中に入っており、非常にコンパクトな商圏で展開しています。
司会 ありがとうございます。続いて、鈴木様にお願いいたします。
鈴木 北海道道北地区の道北アークスのウェスタンパワーズ店で店長をしている鈴木です。弊社は43店舗を展開する460億円規模の企業です。北海道のアークスという企業の子会社になります。
司会 業態ですが、パワーズという店舗は他の店舗と違う特徴はどのようなところでしょうか。
鈴木 ウェスタンという業態は3店舗あります。1000坪クラスの規模です。その中で、ウェスタンパワーズは、複合商業施設の中の店舗で、規模は1000坪で2階建ての店舗になります。
司会 白石様にお聞きします。現在は執行役員ということで、企業全体を見る立場にあると思いますが、入社されてからいままでは、どのような経歴でしょうか。
白石 弊社には、ジョブローテーションがあります。店舗勤務を経験した後は、店舗のオペレーションもしくは商品部もしくは管理部門への配属となります。私の場合は、グロッサリー、生肉部門を経験した後に、店長を2店舗経験し、その後に営業企画部、現在は開発と営業企画部の兼務となっております。
司会 バイヤーのご経験は。
白石 ないです。バイヤーになりたくてSMに入ったのですが、当時は店舗と商品部しかなく、その後、営業企画部ができました。そして、そこに異動という形でしたので、バイヤーは経験していません。
司会 いまの仕事の役割や内容は、どのようなことですか。
白石 営業企画部ではMDの担当ですので、1年間のMDの構築と、それに合わせたチラシの戦略を担当しています。また、商品部と店舗をつなぐという調整の部門ですので、商品のオペレーションにも関わっています。
司会 鈴木様の経歴はいかがですか。
鈴木 入社してから3年間は、売場担当です。その後、9年間は商品部のバイヤーを経験しました。主に、日配品、加工肉、菓子、酒などのバイヤーをやっていました。そして、店長として9年間、昨年は本部の販促部のリーダーになったのですが、また今年、ウェスタンパワーズの店長に異動となりました。
司会 本部と店舗の両方を経験されていますが、どちらの方に興味がありますか。
鈴木 どちらも楽しいですが、どちらかというと、お店の方にやりがいを感じています。
司会 では、普段どのようなことに気をつけて仕事をされていますか。
白石 店長をやって、本部に異動していますので、両方をわかっているつもりです。売上は、店舗ががんばらないとどうにもならないので、本部はどれだけ寄り添って支援できるかが重要だと思っています。基本的にはパートさんを含めて、店舗の意見を聞きながら仕事を進めるようにしています。
司会 お店からのリクエストには、どのように応えていますか。
白石 弊社の営業方針の中に、「できるだけ店舗の意見をすいあげる」というものがあります。お客さまと直接コミュニケーションを取っているのは、店舗スタッフですので、できる限り、その意見や要望、リクエストには応えるように努力をしています。
司会 鈴木様が、普段心がけていることはどんなことですか。
鈴木 私は商品を売ることが大好きです。そこで、いま重視しているのが情報です。商品部を経験しているのですが、商品情報を上手に店舗へ伝えることは難しいと考えています。メーカーの方は近隣の商圏をよく調べられており、商圏内の競合店情報や生活者情報、自社の商品情報や競合品情報などいろいろな情報をお持ちです。その情報を私が仕入れて、各部門の担当者へ伝えるということをしています。
ディスプレイコンテスト参加のきっかけとは
司会 メーカーさんからの情報で、このようなものが役立つというものはありますか。
白石 鈴木さんがおっしゃるように、メーカーの情報は店舗に届きにくく、バイヤーはわかっているのですが、実際に商品を売る部門の長や店長などはわかっていないことが多いですね。メーカーさんにリクエストを出して、店舗スタッフにとってわかりやすい資料にまとめていただき、それを入手しています。そして、店長会議などで説明し、その資料を配布するようにしています。
司会 ディスプレイコンテストに参加したきっかけはどのようなものですか。
白石 AJS(オール日本スーパーマーケット協会)のディスプレイコンテストが、年2回行われていました。さらに、売上を伸ばす施策を探していたところ、3年前ですが、弊社の52週MDでオリーブオイルを売ろうという時期に、日清オイリオさんのディスプレイコンテストの告知がありました。NB商品もしっかり売り込む施策として活用できるとの判断で参加したのが、きっかけです。
司会 鈴木さんのコンテスト参加のきっかは、いかがでしょうか。
鈴木 2013年です。そのころは、商品部が企画していた店舗間コンテストが実施されていました。そのなかで、メーカーさんが実施していたディスプレイコンテストと同じ内容だったものがあり、応募したのが参加のきっかけです。その後、自主的に応募するようになりました。
司会 メーカー主催のコンテストで、最初に参加されたものは、どういったものでしたか。
鈴木 飲料メーカーの大塚製薬さんや伊藤園さん。その他、加工食品のコンテストは多数実施されていたので、当時から積極的に参加していました。
司会 その時は、スタッフは、どのような感じでしたか。
鈴木 やるきっかけの一つが、店長として担当者を育てたいという思いがありました。そのためには、商品に興味を持ってもらうことが重要だと考えていました。商品への興味がないと売る気にならないからです。そして、全国誌に受賞店として掲載されるコンテストの評価は、担当者にとっては達成感がとても大きいものになります。
ディスプレイコンテストの参加のメリットは大きい
司会 コンテストに参加するメリットは、どのようなことでしょうか。
白石 従業員全体の陳列技術レベルをアップできること。そして、弊社ではメーカー主催のコンテストに参加する場合は、参加希望店が商品部へその理由を説明することになっています。それが、販促企画や売場づくりをはじめとする「売る技術」のレベルアップにつながっています。コンテストに参加することで、陳列技術と売る技術がアップできると考えています。
司会 コンテスト実施の情報が店舗に落ちるまでは、どのような流れになりますか。
白石 営業企画部など本部で商談を受けて、月2回行われている店長会議で伝えます。実施予定日の3ヵ月前の会議となります。その場は、店舗からは店長しか出席していませんので、さらに詳しい説明が必要な場合は、店舗の部門チーフを対象とした会議も月2回行っていますので、そこにメーカーの担当者さんか、卸の担当者さんに出席いただいて、コンテストの説明というよりも、商品の説明をしていただいています。
司会 実施概要を伝えるのが3ヵ月前ということでしたが、やはりこのぐらいの期間は必要ですか。
白石 社内のMDミーティングは、3ヵ月後のMDがテーマとなっていますので、その時に議題に上っていないと厳しいです。MDミーティングにもメーカーさんも参加していただいているので、その時点で話がないと参加はないです。
司会 コンテスト参加の際に、どの部門で、どの商品でやるというのは、どのように決まるのですか。
白石 商品部長が決めていることが多いですね。
司会 鈴木さんの方では、コンテストの実施はどのような流れですか。
鈴木 各メーカーさんから、年頭に1年間の大まかなスケジュールをいただいています。私は、それを元に、1年間のディスプレイコンテストの実施予定を決め込んでしまいます。年間で多くても10企画ぐらいの実施になります。通常7企画ぐらいですが、10企画は実施可能範囲です。
司会 年度の頭に決められるという感じですか。
鈴木 そうですね。弊社は1月が翌年度の予算編成の時期ですので、1月の段階で企画を予定に落とし込んでしまい、予算が確定した段階で、ほぼ決定するという流れです。
司会 それは本部としてにやり方ですか、店舗のやり方ですか。
鈴木 あくまでの私個人のやり方です。
商品によって得意・不得意などの判断基準とは
司会 コンテストには、いろいろなカテゴリーがありますが、得意なカテゴリーまたはやりにくいカテゴリーというのはありますか。
白石 得意なカテゴリーというのは、あまりありません。お酒は、苦手かなと。店舗もそのように感じています。ドラッグストア(DgS)など、ディスカウント価格でお酒を売る競合が増えています。そのように価格で勝てない商品のコンテストは苦手というか、取り組まない方向になっています。
司会 関連販売とか、売り方の提案があれば、取り組める可能性はありますか。
白石 社内で6年ほど前ぐらいから、ある企業が実施している研修会に参加しています。その中で、52週MDのテーマがあり、それに基づいて、52週MDを構築しています。その研修会は、「メーカーさんは売れない商品はつくらない。卸さんは、売れない商品はすすめない。売れないのは店舗の売り方と見せ方や商品の伝え方が悪いからだ」という講師の話からはじまります。その売り方と見せ方や伝え方を工夫できる商品ならば、取り扱いなさいという話で、それができないカテゴリーは取り組まない方向になっています。
司会 売り方は、本部主導で考えているのでしょうか。店舗側でしょうか。
白石 弊社は、店長が販売計画を立てて実施することができるようになっていまので、店舗です。
司会 鈴木さんの方は、カテゴリー的な部分はいかかですか。
鈴木 苦手カテゴリーは、日用品ですかね。近隣にDgSがあるために、価格では勝てません。やりたい気持ちはありますが、実際取り組めないですね。
司会 商品が回転するとかしないは大きいですか。
鈴木 それはありますね。お客さまは、価格には厳しく、詳しいですから。あとは、冷凍食品など、伸びている商品には力を注いでいこうと考えています。もちろん、冷凍食品にも価格ということはありますが、便利な商品として消費者に受け入れられていますので、取り込んでいければと考えています。
司会 冷凍商品の場合は、冷凍ケースで既存の商品とやりくりをしてスペースを確保しなければならないと思いますが、それは、どのようにしていますか。
鈴木 店内レイアウトは店長の裁量ということになっています。現状は、冷蔵と冷凍の切り替えできるケースがほとんどですので、やりくりはなんとかできると思います。売上拡大をめざして、取り組んでいきたいと考えています。
司会 白石さんは冷凍食品のコンテストをどのように考えていますか。
白石 弊社商品部では冷凍食品は重点取り組みカテゴリーとなっています。冷凍と冷蔵の切り替えができるケースの導入は、店舗の半数ほどで、残りは切り替えができないケースですので、全店で売場を広げることは難しいのですが、新しい店舗では、青果には冷凍野菜、惣菜コーナーには、惣菜の冷凍食品と、それぞれのカテゴリー別に冷凍食品をラインアップしています。弊社でも売上は好調に伸びていますので、実施しやすい環境にあるかと思います。
商品のよさをわかりやすく伝えられる情報が重要!
司会 最近は、チラシ以外にLINEやFacebookなどSNSを活用している例が見られますが、それらの活用はいかがですか。
白石 弊社では、チラシ以外には「トクバイ」とLINEを使っています。
司会 それは若い方を取り込もうという施策ですか。
白石 新聞の購読率が減少を続けています。弊社の20~30代のスタッフに聞いても、ほとんどが新聞を取っていません。そのため、若い方をターゲットにSNSを使っています。
司会 鈴木さんはいかがですか。
鈴木 弊社も同様に「トクバイ」とLINEを活用しています。そして、私の店独自の取り組みとして、TwitterとFacebookをはじめるところです。ほんの数日前にアカウントが取れたので、準備を進めています。このような店独自の取り組みが多いのですが、いろいろなものを活用して、消費者へアプローチしています。
司会 効率化や人手不足対策として、店舗レイアウトを変更するとか、セミセルフレジを導入するなど、何か対策を行なっていますか。
白石 募集してもなかなか人が集まらないとうこともあります。パートさんに任せたい仕事があっても、技術や経験が追いつかないなど、問題があります。そのため、社員の負担が大きくなり、企画の売場がつくれなくなっています。そこで、商品部がパートさんでもつくれる企画売場の基本レイアウト例をつくろうということで、現在、取り組んでいます。レジはすべて、スピードセルフレジに変更済みです。
司会 バイヤーさんがある程度レイアウトをつくれるということですが、逆にバイヤーさんの仕事が増えたということはありませんか。
白石 増えています。そのこともあって、バイヤーの下にアシスタントバイヤーを2名ずつつけました。
司会 アシスタントが業務を支え、バイヤーが商談を行うということですか。
白石 はい。バイヤーが店舗に行って確認をすることは難しいので、スーパーバイザー的役割としてバイヤーを増員しました。
司会 メーカーのサポートで、こうゆうことがあればと思うものはありますか。
白石 バイヤーは、メーカーさんからいただいた資料をそのまま店舗に渡しても理解しにくい部分があるので、必ず、店舗用につくり変えています。情報量が多すぎても、少なすぎても困りますが、店舗スタッフにもわかりやすいような資料としてまとめてもらったものがあればと思います。
司会 鈴木さんの方では、人手不足などはいかがですか。
鈴木 物流の効率化をすすめました。部門ごとに集中的に配送をしてもらうことで、短時間でも少人数で対応できる体制を構築しています。ただし、夜間の人手不足は長年解消できていません。その対策として、商品の配送を午前中や日中にしてもらっています。
司会 そろそろ終了の時間となりますが、メーカーさんへの要望などがあればお話しください。
白石 先ほども話しましたが、「メーカーさんは売れない商品をつくらない」ということで弊社は取り組んでいます。そこで、「この商品はこのような商品で、このことを伝えてください」という情報は少なく、バイヤーとの商談では、条件の話がほとんどになります。当然ですが、パートさんを含めて、誰もが商品のよさを伝えることができる資料をいただければと思います。わざわざ足を運んで説明いただける場合もあるのですが、スタッフ全員に伝わりません。せっかくの好意が無駄になってしまうので、そうならないような資料をあればと思います。
司会 鈴木さんのご要望はどのようなものでしょうか。
鈴木 やはり、情報ですね。商品を陳列するだけでは、現在は売れません。売れている商品には、ワケがあると思っています。例えば、ロッテの記憶が維持できるガム。ガムは売れない時代なのですが、これは売れています。私は詳しく商品のことはわかっていないのですが、商品の特性がお客さまに受け入れられていると思います。そのようなことを受け、弊社で取り組んでいるのが「ワケを発信しよう」です。POPをつくって、ワケをアピールしています。例としては、「この商品は、No.1です」。消費者へのアピールで最も伝わるのが「No.1」ということがわかりました。「このカテゴリーで1位です」という言葉にお客さまは反応します。そのことから、店内には「No.1」POPがあふれているのですが、その理由を書くための情報がなければ、POPもつくれません。店舗にある情報は限られているので、「なぜ、この商品なのか」「どの層にアピールできる商品なのか」などわかりやすい情報をいただければと思います。消費者への訴求だけではなく、担当者やパートさんもその商品に興味を持ちます。すると、一生懸命に売ろうとします。ということで、情報が欲しいので、よろしくお願いいたします。