激戦の中「おいしい商品」で差別化、多様な販売施策により単品を量販
ハローデイ(福岡県/加治敬通社長)は、味にこだわった商品を強化している。商勢圏では競争が激しさを増す中、他店が扱わない独自のおいしい商品を増やし差別化を図る。売場では食べ方の提案に力を入れ、価格以外の価値を訴求。今年度の秋冬商戦に向けても、これらの施策に取り組み、お客の支持獲得をめざす。 聞き手・構成=森本守人(サテライトスコープ)
「寝ても醒めても新たな試みの深化」
─ハローデイが推し進める商品政策を教えてください。
ハローデイ 執行役員営業副本部長兼商品部部長
戒谷秀彦氏
戎谷 安全・安心な商品を揃えることはもちろんですが、味にこだわった、他店では販売していない商品を増やそうとしています。おいしい商品は、何より人を幸せな気持ちにしてくれます。そういった商品を提供してお客さまの食生活を豊かにすることをめざし、当社では「楽しい食の提案企業になる」をテーマに掲げています。
─現在の競争環境をいかに認識していますか。
戎谷 年々、厳しさが増していると実感しています。とくに当社が主な商勢圏とする九州では、同業態の食品スーパー(SM)だけでなく、食品を低価格で販売し集客するドラッグストア(DgS)、またディスカウントストア(DS)といった異業態が台頭しています。そんなマーケットにあり、購買頻度の高いナショナルブランドについては価格訴求する一方、味にこだわった商品を強化して他店と差別化を図り、お客さまの支持を獲得したいと考えています。
─加工食品は、どのように分類していますか。
戎谷 当社では商品部のなかの1部門としてグロサリーがあり、それを加工食品、菓子、卵、酒、雑貨といったカテゴリーに分けています。商品部全体に占めるグロサリー部門の売上高構成比は全カテゴリー合計値に対して25%前後です。近年はDgSやDS対策により、生鮮食品強化の方向にあるため、結果的に構成比は微減で推移しています。
─業績はいかがですか。
戎谷 この1年で4店を出店したためトータルでは伸長しています。ただ既存店については、ここ数年は横ばいで推移しています。2019年3月期に入っても同様の傾向です。
─19年3月期はどのような方針を掲げていますか。
戎谷 今期に限らず、当社では常に新たな取り組みにチャレンジする方針です。いずれも味にこだわったおいしい商品を全社で提案する施策で、ハローデイならではの売り方も工夫します。競争の激しい環境において、前年と同じことを続けていては売上高は下がってしまいます。当社が重要なテーマとする「寝ても醒めても新たな試みの深化」を日々実践していきます。
また今年12月、当社は創業60周年の節目を迎えます。お取引先のメーカーさまと連携しながら、お客さまに喜んでいただける商品を、これまでにも増して積極的に提案していく考えです。
既存品も吟味する会議
─味にこだわった独自商品は、どのようにして探しますか。
九州地方ではハローデイだけが販売している商品が店内の随所で見られる
戎谷 各地で定期的に開催されている展示会に足を運ぶほか、競合するSMを視察したり、雑誌やテレビ、インターネットなどの情報を参考にしたりして探しています。SMは東京や大阪といった、当社の商勢圏とは異なるエリアの店を調べ、ヒントを得ています。
独自商品は、メーカーと連携してつくるケースもありますが、「九州初」など商勢圏ではまだ流通していないものを引っ張ってくることも多くあります。九州は競争が激しいため、おいしいだけではダメで、他店では扱っていない商品が必要です。
─開発した商品はすぐに全店で展開するのですか。
戎谷 いえ、当社では店に出す前、「商品開発会議」にかけ、そこで承認を得たものだけを売場に並べます。会議は月に1回、サービスセンター(本部)で開かれ、社長、常務のほか、商品部と店舗運営部の部長、各部門の全バイヤー、さらに各ブロックを代表し一部の店長が参加。各部門が販売を計画している商品を皆で試食しながら、意見を出し合います。
グロサリー部門では1回の会議で数品を提案します。量販する商品と、こだわり商品をバランスよく組み合わせることを意識しています。そのまま販売が決まるものもあれば、却下されることもあります。
─ハローデイの商品政策を支える重要な会議ですね。
戎谷 会議では、新商品だけでなく、既存商品も吟味します。とくにABC分析でAランクの商品については、定期的に味を確かめ、改良点がないか検討します。日配品の茶わん蒸しを例にあげると、よく売れていた商品があったのですが、ある時から販売個数が減りました。会議でベンチマーク企業が販売している商品を集め、自社のものと食べ比べしたところ、他社のほうがおいしくなっていることがわかりました。そこで、さらに味のよい商品を投入すると売上高が回復しました。このように会議は、既存商品を磨き込む場としても機能しています。
店内の10カ所で関連販売
─商品の販売方法も工夫されていますね。
戎谷 具体的な取り組みの1つに、全店が参加する「ギネス販売」があります。毎月、各部門で重点販売する商品を決め、競い合って販売するというもので、加工食品で10品目ほどを選びます。成績優秀店を表彰し、従業員の意欲喚起を図る施策です。
売場で展開する際は、価格以外の価値を伝え、お客さまに提案することを意識しています。POPを添えて商品の特徴や食べ方を説明したり、陳列を工夫したりしながら興味を持っていただけるようにしています。たとえばあるロングセラー商品の菓子は、すべての味を揃え、量感を持たせて売場に並べるとともに、その商品の歴史や意外な楽しみ方を紹介し注目度を高めました。
─価値を訴求する売り方は他企業でも見られますが、御社の特徴は何ですか。
戎谷 商品部と店舗運営部が互いに協力し合い、徹底して商品を売り込む点です。開発した商品は、商品部が売場や販売計画を立てる一方、店舗運営部が実際に現場でそのとおりの売場づくりが実行されているか確かめます。両部で計画、実行、評価、改善というPDCAサイクルを回しています。
─関連販売にも力を入れているそうですね。
戎谷 ここ数年、注力しているのは「10カ所関連販売」です。商品を決め、店内の各部門で使い方を提案します。
最近、力を入れる取り組みが「10カ所関連販売」。取材時、久原醤油の「あごだしてりたれ」の関連販売を行っていた。精肉部門では、鶏レバー、砂肝の食べ方を紹介
この取り組みを始めるヒントとなったのは重曹でした。「年末の掃除に活躍しても、残って困る」という声があったことから、うどんやパスタを茹でるときに入れると、ふっくら仕上がるとか、キムチに加えると発酵が進むのを抑えられるといったように、店内のあちらこちらで紹介したところ、非常に売れました。以来、1つの商品を店内10カ所で1カ月間、関連販売する施策を行うようになったのです。
─ほかにはどのような商品を提案しましたか。
戎谷 「乾燥桜エビ」もさまざまな使い方を提案しました。チャーハンや焼きそばに入れる定番の使い方だけでなく、アヒージョに入れると一味違うおつまみになるとか、卵焼きの具材にすると風味がよい、といったようにです。価格は300円近い商品なのですが、提案するとよく動きます。お客さまにとっては、使い方が限定されている商品は、せっかく買っても残ってしまう。そんなお客さまの悩みを解消しているのが、当社の関連販売だと自負しています。
考え、行動する人財を育成
─「10カ所関連販売」で販売すると、どれほど売れますか。
戎谷 乾燥桜エビの場合、定番売場に陳列しているときは、1店で週に1~2個動く程度で、月換算では売れて8個、現在54店あるので全社で400個ほどでした。それが関連販売したことで月9000個が売れました。これはリピーターのお客さまがいないとまず達成できない数値です。定番売場に戻しても以前よりも売れるようになります。
このような施策により、お取引先のメーカーさまにとっては、単品ベースでハローデイがもっとも販売実績が大きいという商品が増えています。そこでメーカーさまには、どの部門で、どういった提案をしたかというデータを提供し、連携強化に役立てています。販売実績があると商談にも有効で、少しでも低価格で商品を提供することでお客さまに喜んでいただくことも可能になります。
─新しい販売施策がメーカーとの関係を強めているのですね。
戎谷 さらに、最近スタートした取り組みとして「コロンブスプロジェクト」があります。これは国内外の各地を3~4日かけて巡り、おいしいメニューや商品を探してくるという内容です。社内で選抜された店長、バイヤー、チーフなど約20名がチームを組んで、動きます。
─こちらも商品開発が目的ですか。
戎谷 その一面もありますが、本来は人財育成の意味合いが強いです。新しい商品を探し、仕入れ、それを売場で展開するという一連の流れを、自ら考え、行動することで身につけてもらうねらいがあります。
サービスセンターが考え、店が商品を販売するという従来のスタイルでは、競争が激化する環境下で生き残っていけません。従業員一人ひとりの能力を高めることが、これからのSM企業には必要なのです。
─全員参加型の経営ですね。
戎谷 インターネットの普及により、食についてもお客さまがさまざまな情報を知っている時代です。自身で調べて興味を持ち、店や旅行に出かけるという行動が当たり前になっています。視点を変えると、SM企業がお客さまの求める食を、十分に提供できていないからお客さま自身が動くと見ることもできます。当社では、従業員全員の力によりお客さまのニーズにお応えしたいと考えています。
汎用性の高い商品に注目
─改めて、今年度の秋冬商戦に向け、強化する商品のキーワードはありますか。
戎谷 これまで説明してきたとおり「おいしさ」です。また「健康」も重要な切り口で、さらに単身世帯の増加や高齢化が進行する状況を考慮すると「個食」「食べきり」といった商品も需要が拡大するでしょう。
─秋冬で注目している商品を教えてください。
戎谷 1つは久原醤油さんの「あごだしてりたれ」です。調味料やだしがバランスよく配合されている商品で、煮物や照り焼きといった料理に使えます。注目するポイントは、汎用性が高いことです。現在、当社が力を入れている「店内10カ所関連販売」との相性もよく、お客さまに使い方を提案していけそうです。同じ理由で、ヱスビー食品さんの「おでんつゆストレートタイプ」や「きざみゆず」も気になる商品です。
また永谷園さんの「はま吸い」も興味深い商品です。はまぐりの風味を楽しめるお吸いもので、七五三をはじめ祝いごとなどの日に売り込めそうです。このように季節やイベントに合わせた商品展開にも力を入れ、売場に変化を持たせていきたいですね。
─最後に、今後の抱負について教えてください。
戎谷 当社は今年、創業60周年で、企業として節目の年になります。競争は今後も厳しさを増すと予想できますが、ハローデイらしい商品や売り方を追求していきます。当社の店に行けば、何か新しい、楽しいことがあると思っていただける店づくりにより、お客さまに喜んでいただき、ひいては競合店との差別化につなげていきたいと思います。